メンズ専用デリケートゾーンソープ。
正直「全身用の普通ノボディソープを何が違うのか?」と疑問を抱いていませんか。
その違和感の正体は使い方のせいではなく、この市場が抱える「処方のジレンマ」と、女性市場からそのまま移植された「借り物の概念」にあります。
そもそもメンズ専用デリケートゾーン用ソープとは何なのか。
本記事では、成分設計の裏側と市場形成の歴史から、なぜこのカテゴリーが「一度は買うが、リピートされないのか」を徹底的に構造解剖します。
| 項目 | 分析結果 |
| 市場の正体 | 女性用の「安心(保険)」を、男性用の「効果(道具)」に無理やり書き換えたもの |
| 停滞の理由 | 「低刺激(弱酸性)」を守るほど、男性が求める「洗浄実感」が消える矛盾 |
| 賢い選択 | 専用というラベルではなく、全身用を圧倒する「機能的な必然」を見極める |
この記事を読み終える頃には、「専用品」という言葉の呪縛から解き放たれ、賢明な消費判断を下せるようになります。
もはや、根拠のない「安心」に無駄なお金を払う必要はありません。
それでは、この市場の知られざる舞台裏を覗いてみましょう。
「メンズデリケートゾーンソープ」市場はなぜ伸び悩むのか。誕生の歴史と「意味ない」と言われる理由
近年、メンズコスメ市場のラストリゾート(最後の未開拓地)として急速に拡大したデリケートゾーン専用ソープ。
しかし、その華々しい登場とは裏腹に、市場は今、ある「静かな停滞」に直面しています。
まずは、この市場がどのような時間軸で私たちの生活に侵入してきたのか、その全体像を整理してみましょう。
| 期間 | フェーズ | 市場の動き |
| 2003 – 2012 | 前史 | 女性市場で専用ケアが定着 概念の種が撒かれる |
| 2013 – 2017 | 形成前夜 | ステルス利用 一部の男性が女性用を代用使用 |
| 2018 – 2023 | メンズ専用化 | D2Cブランドが乱立 男も洗うべきという市場教育 |
| 現在 | 伸び悩み | 定着しないリピーター 継続を支える実感の壁 |
メンズデリケートゾーン専用ソープの誕生:その起源と背景
日本国内で「男性専用」というカテゴリーを極めて明確に意識した商品とされるのは「WASH BALLS」であり、リリースは2018年(*1)です。
この市場の誕生は、先行した女性市場が作り上げた「デリケートな場所は、特別に扱うべきだ」という強力なケアのパラダイムシフトがありました。
男性市場はその苗木を、自分たちのフィールドに植え替えたに過ぎません。
しかし、植物(商品)が育つ土壌……つまり「男性の肌質」や「期待する結果」は、女性のものとは決定的に異なっていました。
デリケートゾーンケアの文脈で頻繁に引用されるのが、ハワード・フェルドマン博士らによる「部位別経皮吸収率」のデータです。前腕の吸収率を「1」とした場合、陰嚢(いんのう)の吸収率は「42倍」に跳ね上がる(*2)とされています。
この数値は、専用ソープの「低刺激性」を正当化する強力な論理的支柱となりました。
しかし、ここで重要なのは「吸収率が高い=専用品でなければならない」という直結した因果関係ではなく、あくまで「化学物質への暴露リスクが高い部位である」という生理学的特性を、市場が「専用の必要性」へと翻訳したプロセスにあります。
前史:女性市場の成功が作った「デリケートゾーン専用ケア」の概念
2006年のデリケートゾーン専用ソープ「コラージュフルフル液体石鹸(*3)」の発売。
2018年の男性用デリケートゾーン専用ソープ「WASH BALLS」の発売。
先行する女性市場が12年以上の歳月をかけて耕し、育て上げた「専用品で洗うという文化」の果実を、後から男性市場が受け取った。
この歴史的背景を知ることは、今のメンズ市場の「歪み」を理解するための、最も重要な補助線となります。
女性向けフェミニンウォッシュの定着と市場の成熟
女性市場において、デリケートゾーンケアがどのように「特別なこと」から「当たり前」へと変わっていったのか。その変遷を辿ってみましょう。
| 時期 | 代表的な出来事 | 市場的な意味 |
| 2006年 | コラージュフルフル液体石鹸(*4) 国内勢が棚に並び始める | 「カテゴリ」の誕生 専用という選択肢が可視化 |
| 2010年代前半 | サマーズイブの本格上陸(*5) 国内大手の参入 | 「習慣」への格上げ トラブル予防という実益との接続 |
| 2015年以降 | VIO脱毛の普及 フェムテックの台頭 | 「文化」としての完成 「ケアすることは自分を大切にすること」 価値観の確立 |
それまで「石鹸」や「ボディソープ」という大きな括りの中で、ひとまとめに洗われていた部位。
そこに、「デリケートゾーン専用」という名前の旗が立ちました。
- 初期の旗振り役
フィリピン発の「pH Care」や、アメリカの老舗「サマーズイブ」といった海外ブランドが、まずECやバラエティショップの棚を確保しました(*6)。 - 「分ける」という体験
これらの商品は、単なる洗浄剤としてではなく、「全身用では強すぎる」という、今まで言葉にならなかった不安をすくい上げる形で広がっていきました(*7)。
まだこの頃、男性にとっての股間ケアは「よく洗う」という物理的な強度(回数や力加減)の話でしかありませんでした。
しかし、隣の棚では「強さよりも、適した環境を整える」という、全く別のロジックが走り始めていたのです。
「ボディソープと使い分ける」という専用ケアの概念が先に成立した
ここで大事なのは、成分の劇的な進化ではありません。
「デリケートゾーン」という言葉が一般名詞化。
ドラッグストアにそのための区画が用意。
これこそが最大のイノベーションだったのです。
「股間は、全身用とは別のルールで扱うべき場所である」という認識の成立です。
| 比較項目 | 一般的な ボディソープ | デリケートゾーン 専用品 |
| 役割 | 洗浄 汚れをしっかり落とす | 調律 環境を健やかに保つ |
| イメージ | 清潔・効率・一括 | 丁寧・慈しみ・専門 |
| 習慣化の鍵 | 洗わないと汚いという 洗う義務 | 分けることで安心する 心の保険 |
| 市場言語 | 洗浄力・泡立ち | 弱酸性・低刺激・pHバランス |
女性市場がこの「専用品という考え方」を商品価値として成立。
後の男性市場には、ゼロから説明する必要のない「完成されたマニュアル」が用意されていたことを意味します。
女性用市場でのノウハウを男性用市場に転用。
この「借り物の概念」は、当初は非常にスムーズに男性たちに受け入れられました。
なぜなら、そこにはすでに「ステルス(隠れて)」使い始めていた先駆者たちがいたからです。
前史後半:男性による「女性用デリケートゾーンソープ」のステルス利用
「男性専用」という看板が掲げられる以前。
その場所は地図なき荒野でした。
ですが、誰もいなかったわけではありません。
メーカーが「男性もそこを専用品で洗うべきだ」と声を上げるずっと前から、一部の鋭敏な男性たちは、すでに静かに「国境」を越えていました。
それは、大衆が困り果てていた救済の歴史ではなく、女性用という既存の解決策を見つけ出した「ライフハック」としての始まり。
市場が需要を作ったのではなく、散発的に起きていた「反応」を、後にメーカーが観測し、言語化した。これがこの市場の真の成り立ちです。
悩みより「発見」。股間も専用ケアの対象であるという気づき
それまで、男性にとっての股間は「ただ洗う場所」といった感覚が一般的でした。
しかし、女性市場の盛り上がりを目にしたとき、彼らの中に一つの疑問が芽生えます。
「女性がわざわざ分けるのなら、男の自分も分けるべき理由があるのではないか?」
これは深刻な悩みからの脱却というより、ケアにおける「未開拓領域」の発見に近い感覚でした。
- 未分化期
全身用ソープで頭から足先まで一括で洗うのが当たり前。
↓ - 接触期
女性市場で「専用品」という概念を目にする。
↓ - 自覚期
「そこも別で洗う」という発想が、自分の選択肢に入る。
↓ - 試行期
手近な女性用を手に取り、「ステルス利用」が始まる。
この「気づき」の連鎖こそが、市場というエンジンに火を灯す最初のスパークとなったのです。
初動は常用だけでなく、デート前の「ニオイ対策」というスポット需要
初期の利用者たちが求めていたのは、毎日の健康習慣というよりは、特定のシーンにおける「減点回避」の手段でした。
掲示板や口コミサイトのアーカイブを辿ると、そこには極めて実利的な、場面ごとの使い分けが見えてきます。
| 利用タイプ | 主なシーン | 動機と期待 |
| スポット需要 | デート、お泊まり | 「もしも」の時のニオイ不安を消したい マナーとしての清拭 |
| 美意識・感度層 | 毎日の入浴 | 身体を細部まで整える「自分への投資」 美容感度の高さ |
| 衛生実益層 | 蒸れ、痒みの発生時 | 現実的な不快感を解消するため 緊急避難的な利用 |
| 代理購入層 | パートナーからの推奨 | 女性側が自分と同じケアを男性に求める |
特に「大切な場面」での失敗を恐れる心理は、低刺激という機能以上に、男性を専用品へと向かわせる強い動機となりました。
初期のステルス利用者が女性用(サマーズイブやpH Careなど)を使っても大きな違和感を抱かなかったのは、当時の男性たちの期待値が「低刺激であること」よりも「専用品を使っているという安心感」に比重があったからだと考えられます。
生理学的に見ると、鼠径部や陰嚢を含む男性外陰部周辺はアポクリン汗腺を有する部位であり、また皮脂分泌は一般に女性より男性で高いです(*10)。
本来は男性特有の「脂質汚れ」や「菌の繁殖」に特化した処方が望ましいのですが、初期の段階では「石鹸カスが残りにくい」「香りが穏やか」といった女性用の特徴だけでも、全身用ソープとの明確な「違い」を感じるには十分でした。
「なんとなく良い気がする」という個人の感想が、ネットの海を通じて集合知へと変わっていく。
この時点ではまだ、それはごく一部の「知る人ぞ知る習慣」に過ぎませんでした。
しかし、このステルス利用という伏線が、2013年以降に押し寄せる「社会的なニオイ意識」の波と合流したとき。
市場は、もはや隠れて使うものではない「必然のカテゴリ」へと、一気に加速していくことになります。
市場形成:体臭対策とメンズ美容。越境利用が作った市場の土壌
男性専用ブランドが爆発する直前、世の中の空気はすでに需要で満たされていました。
それは、単に新しい商品が欲しかったからではありません。
2013年から2017年にかけて起きたのは、「ニオイ」という生理現象が、「マナー」という名の社会的な評価軸へと作り替えられたプロセスです。
女性用市場の一般化と並行して、男性の身だしなみに対する常識は、劇的なアップデートを遂げました。
| 年 | 社会的キーワード | 市場の地鳴り |
| 2013 | 女性用ケアの一般化 | サマーズイブ等の本格展開 専用品がある景色が日常に |
| 2014 | スメハラ(概念の定着) | 体臭対策の変質 個人の自由から対人リスク管理へ |
| 2016 | 清潔感バブル | モテの定義の変質 造形から快感の除去へ |
| 2017 | 越境利用の顕在化 | 合理的判断 効果があるなら女性用でも構わない |
「スメハラ」への不安が、股間のニオイ対策を対人リスクに変えた
「スメルハラスメント(スメハラ)」という言葉の浸透は、男性たちの意識に決定的な楔(くさび)を打ち込みました。
ニオイはもはや、自分やパートナーが心地よいかどうかではなく、「他者から評価を下されるリスク」へと昇格したのです。
ワキ、口臭、足の裏。
主要な戦場が次々と制圧されていく中で、最後に残された「未開拓の聖域」こそが、股間でした。
- リスクの隠蔽
職場では露見しにくい。 - 近接戦の不安
満員電車、あるいはパートナーとの親密な時間。 - 自己検閲
「自分だけが気づいていない、不快なニオイはないか?」という猜疑心。
この「目に見えないリスク」への不安。
専用ソープという解決策を、単なる贅沢品から「安心を買うための道具」へと変えていきました。
デオコおじさんは、男の越境利用を可視化した
市場形成の仕上げとして起きた象徴的な出来事が、いわゆる「デオコおじさん」現象に代表されるレディース商品の越境利用です。
デオコおじさん
本来女性向けに開発された洗浄剤(デオコ)を、加齢臭を抑えたい男性たちが「効くから」という理由で奪い合うように買い求めた現象を指します(*11)。
この出来事が市場に示した、具体的な男性心理は下記の3つでした。
「女性用を借りている」というステルス利用から、「良いものは良い」というオープンな越境へ。
「ならば、最初から男性専用として旗を立てれば、巨大な領土が手に入るはずだ」
力強い需要のうねりを目の当たりにしたメーカーたちが、こう確信したのは極めて自然な帰結でした。
男性の体臭(特に加齢臭や皮膚ガス)は、皮脂が酸化して発生する「ノネナール」などが主な原因です(*12)。
一方で、多くの女性用消臭アイテムは「汗による雑菌繁殖」や「特定の脂質汚れ」をターゲットに設計されています。
デオコ現象で注目された「ラクトン(若い女性特有の甘い香り成分)」の補填は、科学的に男性の加齢臭を消し去るわけではありません。
しかし、「加齢によって失われた清潔なイメージを上書きできる」という認知的補完が、成分以上の強力な「効き目」として機能しました。
この「不足を埋める」という体験が、後のデリケートゾーン市場における「安心の購入」に直結しています。
ニオイへの恐怖、清潔感への渇望、そして「専用品」という概念への慣れ。
2017年の末、市場という名の舞台には、すでに役者も小道具も揃い、あとは主役の登場を待つばかりとなっていました。
そして2018年。 満を持して「男性専用」というラベルを掲げた新興勢力たちが、その扉をこじ開けることになります。
2018年の決定打:「メンズ専用」ブランドの登場で市場が立ち上がる
2018年の「WASH BALLS」発売を皮切りに、「NULL」や「NILE」といった新興D2Cブランドが「男性専用」の旗を掲げて参入したことで、状況は一変します。
起きたのは、劇的な成分の発明ではありません。
バラバラに存在していた男性たちの不安を、「これは、あなたのための専用品です」という強烈なラベリングによって言語化したこと。
これが、市場を爆発させた真のトリガーであり、以下のようなステップを踏んで「実在する棚」へと進化しました。
- 概念の種
女性市場で「専用ケア」という概念が当たり前になる。
↓ - 予兆
一部の男性が、女性用を「ステルス利用」し始める。
↓ - 土壌
スメハラ・デオコ現象により、ニオイ対策への心理障壁が消える。
↓ - 決定的瞬間:2018
D2Cブランドが参入。「メンズ専用」というラベルを確立。
↓ - 売り場の完成
EC(Amazon/楽天)が「匿名で買える棚」として機能し、市場が定着。
「専用」という言葉は、性能差より「売るため」の販売ラベルだった
「専用」というワードは、化学的な進化の意味合いより、「誰がどこで買うべきか」を示すナビゲーション・ラベルとしての側面が強いものでした。
膨大な商品数を抱えるECサイトにおいて、商品を見つけてもらうためには「メンズ ボディソープ」ではなく、「メンズ デリケートゾーン」という独自のカテゴリーを作る必要があったのです。
| 役割 | 心理的・戦略的効果 |
| 検索(SEO) | 「何で洗えばいいか」と迷う層をダイレクトに捕捉 |
| 売場の構築 | EC上の「関連商品」として、他のメンズケア品と紐づけ |
| ターゲティング | 「男の肌は女性より脂っぽい」といった比較論が可能 |
| 不安の解消 | 「自分だけがおかしいのではない」という社会的承認を付与 |
つまり「専用品」とは、技術的な突破口である以上に、「そこを洗うべきか」と迷っていた背中を力強く押すための、販売上の「合図」だったのです。
入口は「VIO脱毛・蒸れ・ニオイ」。なぜ彼らはレジへ向かったのか
この市場の面白いところは、購入者が必ずしも「深刻な病」に悩んでいたわけではない点にあります。
入口は、まるで迷路のように複数のルートが用意されていました。
| 日常(常用) | 場面(スポット) | |
| モテ・美意識 | VIO脱毛後のスキンケア 清潔感への投資 | デート前、お泊まり前 失敗できない夜の「マナー」 |
| 悩み・ニオイ不安 | 股間の蒸れ対策 股間の痒みのケア | 「スメハラ」を恐れる中年層 代理購入(妻・彼女)による導入 |
- 美意識層
「全身ソープで洗うのは、顔を雑巾で拭くようなものだ」という訴求に反応。 - ニオイ不安層
「自分では気づけないが、実は臭っているかも」という不安を回避。 - 不快な症状
「股間のムレや股間のかゆみを解決したい」という不安の解消。 - 代理購入層
「パートナーにこれを使ってほしい」という女性側の要望(衛生的越境)。
複数の動機が「専用品」という一点で合流。
市場は短期間で厚みを持つに至りました。
「男も、そこを専用で整えるべきだ」。
この市場教育という名の呪文は、2018年を境に男性たちの常識を塗り替えました。
しかし、期待に胸を膨らませて使い始めた男性たちの前に、今度は「継続の壁」が立ちはだかることになります。
伸び悩みの理由:メンズ専用ソープは本当に必要か。なぜ定番にならないのか
「男性用」という看板を掲げ、華々しくデビューを飾ったデリケートゾーンソープ。
しかし、多くのブランドが突き当たっているのは、認知不足という壁ではありません。
一度は手に取ってもらえても、それが「二度目」に繋がらない…。
つまり、「市場は立ったが、生活の一部として着地できていない」という現実です。
その理由は、巧妙なマーケティングが作り出した「入口」のロジックが、実際に使い続けるための「出口」の満足感と、致命的に食い違っていることにありました。
ユーザーが商品を手に取り、そして離れていくまでの構造を整理します。
| フェーズ | 購入理由 | リピートしない理由 |
| 購入動機 | 不安訴求、専用品 ECでの匿名性 | 理由の欠如 これでなければならない |
| 期待値 | 劇的にニオイが消える 肌に優しい | 疑問 全身用と何が違うのか? |
| 継続可否 | SNS広告 インフルエンサーの推奨 | 実感の薄さ 価格に見合わない |
吸収率「42倍」という恐怖訴求は、初回購入には効くが継続には弱い
「デリケートゾーンは腕の42倍、成分を吸収しやすい(*2)」。
この数字は、市場を立ち上げるための「最強の武器」でした。
この「42倍」というインパクトのある数字は、反射的に「普通の石鹸で洗うのは危ない」という恐怖に近い確信を与えます。
しかし、ここには落とし穴がありました。
- 入口のロジック
「特殊な場所だから、専用品が必要だ」という「理屈」 - 継続のロジック
「使ったから、悩みが解決した」という「実感」
市場を立てるためのレトリックは、初回の決済ボタンを押させるには十分です。
しかし、使い切る頃に「で、結局何が変わったんだっけ?」という問いに答えられない商品は、リピートという「出口」で脱落していく運命にあります。
「普通のボディソープで十分」という壁。一般品も安全設計されている
「専用品だから肌に優しい」という訴求は、裏を返せば「一般品は刺激が強い」というイメージを前提としています。
しかし、ここには一つの大きな誤算がありました。
日本の大手メーカーが作る「全身用ボディソープ」の品質は、世界的に見ても極めて高い。
多くの一般ボディソープは、すでに弱酸性であったり、デリケートな肌にも配慮された洗浄成分を採用したりしています。
| 比較 | 男性専用 デリケートゾーン用 | 全身用ボディソープ (高機能製品) |
| 安全性 | 非常に高い 低刺激設計 | 高い 多くのパッチテストをクリア |
| 洗浄力 | 穏やか マイルド | しっかり落とすが潤いは守る |
| 継続理由 | 専用である 自意識 | 圧倒的なコスパ 家族で使える利便性 |
「専用だから安全だ」という主張。
実はこれは一般品の高い安全性の前では、決定的な差別化要因になり得なかったのです。
低刺激か、洗浄力か。メンズ専用処方が陥った「弱酸性」のジレンマ
ここが最も深刻な問題です。
男性専用デリケートゾーン用ソープの設計は、物理的な「行き止まり」に突き当たっています。
男性のデリケートゾーンは、皮脂が多く、ニオイの元となる菌も繁殖しやすい。
一方で、部位そのものは刺激を受けやすくデリケート。
この矛盾が、開発現場に以下のジレンマをもたらします。
- 「優しさ(弱酸性)」に振り切る
女性市場の文法に倣い、低刺激を極める。
↓
結果
男性のタフな皮脂汚れやニオイが落ちきらず、効果実感が得られない。
- 「洗浄力(結果)」に振り切る
ニオイの元をしっかり落とす。
↓
結果
低刺激という「専用品」の看板を下ろすことになり、全身用ソープとの差が消滅する。
この結果、多くの商品は「なんとなく優しいけれど、ニオイへの手応えも中途半端」という、どっちつかずの地点に着地してしまいます。
この「中途半端さ」こそが、ユーザーがリピートをやめる最大の理由です。
「安心」の女性と「効果」の男性。専用ソープに求める実感の差
同じ「専用ケア」でも、男女ではその購買心理の構造が異なります。
- 女性市場(保険)
「トラブルが起きないように」「自分を丁寧にケアしている」という、「安心」と「肯定」の積み上げが継続の理由になります。 - 男性市場(道具)
「このニオイは消えたのか?」「痒みはどうなったのか?」という、「機能」と「結果」の解決が継続の条件になります。
男性にとって、デリケートゾーン用ソープは自分を愛でるための儀式ではなく、問題を解決するための「道具」です。
道具である以上、結果が伴わなければ、より安価で使い慣れた「代用品(全身用ソープ)」に取って代わられるのは、論理的な帰結といえるでしょう。
最大の競合は他社製品ではない。お風呂場の「全身用ボディソープ」だ
男性専用デリケートゾーン用ソープにとって、本当の敵は隣の棚に並ぶライバルブランドではありません。
すでにお風呂場に鎮座している、「全身用ボディソープ」です。
- 価格
別途購入するためのコスト - 手間
ボトルが増え使い分ける面倒さ - 習慣
1つで全身を洗う習慣
この「最強の既得権益」を打ち破るには、「なんとなく良さそう」程度の理由では到底足りません。
「これを使わないと、自分は損をする」というレベルの圧倒的な実感がなければ、専用品のボトルは二度と詰め替えられることはないのです。
「男性専用デリケートゾーン用ソープ」
この巧妙な言葉に導かれて、新しい習慣の扉を叩く。
しかし、その扉の向こう側に待っていたのは、期待したほどの「劇的な変化」ではなかったのかもしれません。
少なくとも今の時点では男性はデリケートゾーン用ソープはそこまで必要ではありません。
高機能なボディソープ1つでカバーできてしまうので、「デリケートゾーン用ソープはいらない」とすら言えてしまいます。
市場は立ちました。
認知も広がりました。
しかし、本当の意味で「生活」に根付くための戦いは、まだ始まったばかりなのです。
まとめ:メンズデリケートゾーンソープは「いらない」のか。市場を阻む実感の壁
- 概念の借用
女性市場が15年かけて築いた「専用ケア」という文化を土壌にする。 - 反応の種
敏感な男性たちによる「ステルス利用」という伏線が生まれる。 - 市場の誕生
2018年、D2Cブランドが「専用」という強力な販売ラベルを確立。 - 入口の活況
不安、モテ、衛生意識。複数の動機が絡み合い、初回購入が爆発。 - 現在の停滞
「全身用ソープを置き換えるほどの圧倒的な差」を示せず、継続に失敗。
ここまでの謎解きを整理すると、伸び悩みの正体は「認知」の問題ではなく、極めて物理的な「構造」の問題であることが分かります。
- 処方のジレンマ
「低刺激(弱酸性)」を守るほど、男性が求める「消臭・洗浄」の実感が薄れる。- ユーザーの反応
「優しいけど、物足りない」
- ユーザーの反応
- 競合の強大さ
安価で高品質な「全身用ソープ」が、既に浴室の王座に座っている。- ユーザーの反応
「今のままでも十分かも」
- ユーザーの反応
- 評価軸のズレ
「安心」を買う女性市場に対し、男性市場は「結果」という対価を厳しく求める。- ユーザーの反応
「二度目は買わなくていい」
- ユーザーの反応
結局のところ、多くのメンズ専用品は、女性市場から借りてきた「優しさ」という衣装を纏ったまま、男性市場という「結果至上主義」のリングに上がってしまったのかもしれません。
本当に市場が再燃するためには、現在の「低刺激一辺倒」の処方から脱却する必要があります。
例えば、特定のニオイ物質(イソ吉草酸など)に対してのみ選択的に作用する吸着技術や、洗い流した後も肌のpHを理想的に保ち続ける「バッファー作用(緩衝能)」の強化。
こうした全身用ソープではコスト的に実現不可能な「部位特異的なベネフィット」を、体感できるレベルで実装できるかどうかが鍵となります。
「専用」という言葉を、単なるラベリングから「機能的な必然」へと進化させるフェーズが求められています。
「専用品」という選択肢がこの世に生まれたこと自体は、セルフケアの幅を広げてくれる素晴らしい進歩でした。
しかし、その市場が「定番」として日常に溶け込めるかどうかは、もはや広告のインパクトや数字のレトリックでは決まりません。
本当にこの市場が再び伸びるためには、「専用」というラベルの強さに頼るのではなく、「全身用で洗うよりも、明確に明日が変わる」という確かな実感が必要不可欠です。
境界線を引いたあとの世界で次に求めるのは、名前だけの「専用」ではなく、生活を変える「道具」としての誠実さなのかもしれません。
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